それは、続きだった。
夢の続きを見るのは、果たして誰の想い故か。 赤黒い景色がよみがえり、阿鼻叫喚の世界へと再び落ちる。 『ダメ!』 咳き込みがちな血の匂いの中の、むせ返りそうな神気が渦巻くさなか、俺は腕を掴まれた。 しかし、今度は振り払わなかった。 振り払えるはずもない。 集結し、膨張していた力が霧散する。 どうして止めるんだ。 俺がやらなきゃ。 だから、俺が、 『あなたはダメ』 どうして。 理由が分からず振り返ると、俺を背後から抱き締める少女がニコリと笑った。 だが、 少女の想いが聞こえてくる。耳によくなじむ、小鳥のような声は、不思議と現実じみていた。 夢とは、なんて便利なものなのだろう。たとえ己の願望だとしても、俺が真と言えば、それが真実となる。 ――あなたが、好きだから。 心臓がどくんと跳ねる。 どうか、目覚めないでくれ。 現への浮橋を渡らないでくれ。 彼女の告白を、昔の俺には伝わらなかった想いを、受け取るまでは。 ――だから、死んでほしくない。 死。 何故だろう。ひどく身近で当たり前なものなのに、この少女が言うとひどく好ましくないことのように思える。 ――あなたは、いつも自分なんてどこにもない風で。 自分の存在を見つけられなかった。どこにいても、誰といても。愛情を感じても。俺の居場所はそこではなくて。 ――いつも私たちのことを一番に考えて。 この世界に、必要なものだと思った。失くしてはいけないと思った。 一緒に過ごした時間も、一緒に笑ったその声も、何もかも。大切だったんだ。失くしたくないと思った。 ――そんなままでいてほしくない。 変わりたくなんてない。失くしたくない。 ――ちゃんと自分の幸福を見つけてほしい。 多幸だった。みんなといることが、何よりも。……何よりも。 ――今でなくていい。いつか。 いつがあるというのだろう。箱庭から出ることなど許されていないのに。逃げだせば、きっと俺は狂ってしまう。 しかし、一生、なんて言葉がないことも知っている。先なんて、一番不確実なもの。 ――この地位が邪魔なら、消してあげる。 ああ、いらない。この地位も、この髪も、この瞳も、この力も。なければいい。 ――この視線がつらいなら、消してあげる。 嫌いだ。侮蔑と恐怖と猜疑に彩られた、多くの目が。 ――だから。 『私がやる』 光が、聖なる光が集まる。俺のものより繊細で、温かい。 『みんなは殺させない』 ――リュートのために。 視界に光が満ちる。 意識が。 少女がこちらを向いた。最初で最後の。美しくも儚い泣き笑い。 消える。消えてしまう。 俺が? 少女が? 『――リナリア!』 俺の意識は、さらに深みへと沈んでいった。 |