月明かりの中、走る。
ウェルナキアの感覚だけが頼りで、私は転ばないように走るだけで精一杯だった。途中、モンスターに出くわさないことを祈る。 「まずいです。数が多い。早く向かわないと…」 どうやら、設置してきた結界の周囲をモンスターが取り囲んでいるらしい。どうやって感じ取っているのかは知れないが、こういうときのための結界ではなかったのだろうか。 「結界は万能ではないんです。あんな数のモンスターに一斉に攻撃されたら、破られてしまいます」 つまり、かなりやばい状況だ。 「っ」 木の根に足を取られそうになる。 月明かりが、もっと明るければよかったのに。 裸の足が痛む。 「!」 奇声が聞こえた。モンスターの声だ。近い。 ―――ラント! 先を走るウェルナキアが止まった。 手でこちらを制してくる。 何故…とウェルナキアの顔を見ると、彼は目を見張っていた。怪訝に思い、ウェルナキアの肩越しに、前を見る。 「!?」 守ってあげたい。 町の女の子たちが口を揃えて言った、ランティアに対する印象だ。 私は、もう少し逞しいほうがいいわ。 初めてランティアをみたとき、そう思った。 守ってあげたいなどとは、思わなかった。 けれど、ずっと年下だと信じて疑わなかった。 確かに、ランティアは己の年齢に対して何も言っていない。 だが、彼の纏う雰囲気が、彼を幼く見せているのだ。見た目が若いだけではない。 それでも、普段の仕種や話し方は大人びていると思う。 でも―― 今は違う。 「ラン……ト?」 体が勝手にランティアに向かって行くのを、ウェルナキアに止められる。 「今は行かないほうがいいです」 それに敢えて刃向かおうとは思わなかった。 思えなかった。 今のランティアは―― 「すごい気だ…なんて――」 なんて、神々しい。 暗闇にさす月明かりが霞んでしまうほどに。 およそ二十歩ほども離れているのに、輝かしさに直視できない。 全身を厳重なオーラに包まれたランティアが、ゆっくりとこちらを向いた。 目は合わない。 こちら側――私たちに背を向けているモンスターを眼中に納めたのだ。 ランティアの眼は、純度の高いアメジストに月の光を通したように美しかった。 ――綺麗… 私はこの光を、以前、見たことがある気がする。 暖かくて、けれど、どこか危うい光だ。 そして、恐ろしいほどに絶対的な輝き。 私はどこで見たんだろう。 「………っ」 また、言葉が浮かぶ。 口をついて出そうになるが、すんでのところで飲み込む。 ――だからこんな言葉、相応しくないって! なんで… ランティアを見ていると…込み上げてくる。 ランティアが動いた。 それは、瞬きも出来ないほどの短い時間だった。 私が我に返ったのは、ランティアが地面に倒れる音を聞いた時だった。 |