第3章 密やかなる破片




B




 森の中がこんなに歩きにくいとは思わなかった。
 一度も入ったことがなかったから――当然だ、普通は入らない――どんなところなのか興味もあって来てみたが、失敗した。
 けれど、途中で湖を見つけられたことは幸運だった。ずっと湿気った中を歩いて来て、体中べたべたで気持ち悪かったのだ。
 ランティアは強い。
 それは、剣の構えから分かった。彼に比べたら、私の剣の腕なんて、ただのお遊戯でしかないだろう。そのランティアがかなり警戒していたので、やむなくウェルナキアを連れてきたのだが――これも失敗だった。

「ねぇ、見てください。皆さんからお借りした石、ぴったりですよ」

―――うるさい

 見ろと言われても、こちらはすでに水の中。彼は、大きな岩の裏。わざわざ回り込んで来いということなのか。だいたい、石がぴったり合ったからと言って、何なのだ。

「あ、でも、まだあと一つくらい足りませんね…」

―――だからっ

 少し文句を言ってやろうと、岸に近寄る。

「ねぇ、フィリさん」

「何よ」

「ラントさんって、気功使いですよね」

「? 気功使い?」

 何だ、それは。聞いたことがない。

「はい。とても大きな力を秘めているのを感じます――って、知らなかったんですか?」

「私がラントと出会ったのは、あんたと会う数時間前よ。知るわけないじゃない」

 私には、ウェルナキアみたいな力もない。

「そうだったんですか。僕、気功使いって初めて見たんですが、本当に細いんですね。それも、若いし」

「? どういうこと?」

 確かにランティアは、少し細すぎるんじゃないかと思うほど細い。しかし、それが何か関係するのだろうか。

「気功使いは、自分の気を使って、超人的な力を発揮するんですよ。いつでも気を使えるように、自分の気を操作して、己の中に閉じ込めておくんです。外に漏れないように。でも、それをするには、常に集中していないといけない。集中し続けるのは大変です。だから、代わりに体に負担をかけて、抑え込んでいるんですよ」

 ウェルナキアは、そこまで一気にしゃべって、軽く息をついた。

「なので、気功使いは、どうしても細身になりがちなんです。力が必要なときは、気を発すればいいので、問題はないみたいですけどね」

「ふーん…」

 もう一度、水に入り直す。話が長くなりそうだ。

「ただ、気をしょっちゅう使うわけにもいかないので、おもに力を受け流すような剣術や拳術を身につけるようですね」

 そういえば、ランティアの剣筋は、流れるように軽々としていた。あまりの流麗さに、思わず見とれてしまったほどだ。

「それで、体内に気を抑え込んでいると、体の成長や老いも緩やかになるそうです」

 それって……

「ラントさんの中に眠る気から察するに、ラントさん、見た目は十五、六ですけど、実際は二十前後でしょう――うわぁ!?」

「!?」

 ウェルナキアが急に慌てた様子で腰をあげた気配がした。驚いたのはこちらの方だ。

―――ラントが…年上?

「フィリさん! すみません、気づきませんでした!」

 あたふたと荷物を探っている音がする。一体どうしたと……

「モンスターです!」








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