森の中がこんなに歩きにくいとは思わなかった。
一度も入ったことがなかったから――当然だ、普通は入らない――どんなところなのか興味もあって来てみたが、失敗した。 けれど、途中で湖を見つけられたことは幸運だった。ずっと湿気った中を歩いて来て、体中べたべたで気持ち悪かったのだ。 ランティアは強い。 それは、剣の構えから分かった。彼に比べたら、私の剣の腕なんて、ただのお遊戯でしかないだろう。そのランティアがかなり警戒していたので、やむなくウェルナキアを連れてきたのだが――これも失敗だった。 「ねぇ、見てください。皆さんからお借りした石、ぴったりですよ」 ―――うるさい 見ろと言われても、こちらはすでに水の中。彼は、大きな岩の裏。わざわざ回り込んで来いということなのか。だいたい、石がぴったり合ったからと言って、何なのだ。 「あ、でも、まだあと一つくらい足りませんね…」 ―――だからっ 少し文句を言ってやろうと、岸に近寄る。 「ねぇ、フィリさん」 「何よ」 「ラントさんって、気功使いですよね」 「? 気功使い?」 何だ、それは。聞いたことがない。 「はい。とても大きな力を秘めているのを感じます――って、知らなかったんですか?」 「私がラントと出会ったのは、あんたと会う数時間前よ。知るわけないじゃない」 私には、ウェルナキアみたいな力もない。 「そうだったんですか。僕、気功使いって初めて見たんですが、本当に細いんですね。それも、若いし」 「? どういうこと?」 確かにランティアは、少し細すぎるんじゃないかと思うほど細い。しかし、それが何か関係するのだろうか。 「気功使いは、自分の気を使って、超人的な力を発揮するんですよ。いつでも気を使えるように、自分の気を操作して、己の中に閉じ込めておくんです。外に漏れないように。でも、それをするには、常に集中していないといけない。集中し続けるのは大変です。だから、代わりに体に負担をかけて、抑え込んでいるんですよ」 ウェルナキアは、そこまで一気にしゃべって、軽く息をついた。 「なので、気功使いは、どうしても細身になりがちなんです。力が必要なときは、気を発すればいいので、問題はないみたいですけどね」 「ふーん…」 もう一度、水に入り直す。話が長くなりそうだ。 「ただ、気をしょっちゅう使うわけにもいかないので、おもに力を受け流すような剣術や拳術を身につけるようですね」 そういえば、ランティアの剣筋は、流れるように軽々としていた。あまりの流麗さに、思わず見とれてしまったほどだ。 「それで、体内に気を抑え込んでいると、体の成長や老いも緩やかになるそうです」 それって…… 「ラントさんの中に眠る気から察するに、ラントさん、見た目は十五、六ですけど、実際は二十前後でしょう――うわぁ!?」 「!?」 ウェルナキアが急に慌てた様子で腰をあげた気配がした。驚いたのはこちらの方だ。 ―――ラントが…年上? 「フィリさん! すみません、気づきませんでした!」 あたふたと荷物を探っている音がする。一体どうしたと…… 「モンスターです!」 |