第3章 密やかなる破片




K




 茶眼茶髪の二十歳ほどの男が現れる。その男が来ている服も近衛の服だった。ただし、僕のものとは違って、魔法使いの制服をベースとしている。この男は、もう一人の近衛だ。

「サキ!? まさか、陛下、サキューテを――」

「そうだよ、キア。サキ、キアをよろしく頼むよ」

「はっ」

 これ以上ないほどの助っ人だ。まさか、サキューテを付けてくれるなんて――サキューテは陛下の最も信頼する魔法使いだ。傍にいるときは護衛だけでなく、相談役も兼ねている。それを僕たちの旅に…?
 確かに、サキューテは強い。火、水、風、地と魔法使いが操れる全属性を操り、その腕も確かで、数十年に一人の逸材といわれるほどだ。他の魔法使いたちとは比ではない。精魔使と比べても勝るとも劣らないだろう。さらに、地方の身回りにもよく行っているため、顔が広いし土地勘もある。
 王にそこまで心配させているとは気付かなかった。
 いつもニコニコと笑って、惜しみなく愛情を注いでくれているから。
 陛下には何が見えているのだろう。
 その太陽のような二つの瞳で、何を見透かしているのだろう。
 僕はもう長くない。
 それは精霊に聞いた。
 火、水、風、地、光、闇のすべての属性の精霊と契約をしている人間は未だかつて存在しない――ある地域のものを除いて。
 人在らざる力を奮う者。それらを束ねる、神聖なる王――不可侵の国ホーリィグレース。
 ホーリィグレースという国の力を失って、強い力は均衡を崩し始めている。
 精霊には見えていた。
 僕の強すぎる力の消失が。
 僕の消滅が。
 それは近いうちに起こる。
 ならば僕は、ホーリィグレースに行く。自分の国に帰る。それが力あるものの務めだから。
 きっともう戻れない。陛下の顔を見るのも、これが最後になるかもしれない。それでも――

「キアも今日はもう疲れただろう。詳しい話は明日聞くから、お休み」

 僕は再び礼をとって、その場を後にした――







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