―――何だ、これは!?
王都までどうやっていこうか考えていた矢先、それは唐突に目の前に現れた。 ―――ハイドか? 灰や茶の混ざる半透明のゼリーのような体をしているそれは、ぶにょぶにょと揺れていた。 「いやーっ 何これ、気持ち悪い!」 大きさは、俺達が丸ごと入っても余りあるほどで――でかい。これほど大きなものを目にしたのは初めてだ。こんな巨大なものが存在していたなんて……いや、そもそも何故こんな町の近くに現れたのだろう。通常ならば、廃棄物と人の負の感情が混ざって出来たこいつらは、廃工場等にいるはずだ。 あの時もそうだった。村を出たときも、街道にモンスターが現れた。 「いやっ こっちきたわ!」 今は考えるより倒す方が先のようだ。 俺は、巨大なゼリーに斬りかかった。 「―――はぁっ」 だが、まるで手ごたえがない。 「えっ ちょっ 増えた!?」 「! …分裂!?」 確かに、二つに斬った。 そして、二つになった。 また斬る。 今度は、二つ連続で。 そして、四つになった。 「な……」 どうやら、こちらが斬るより先に分裂しているようだ。 次々にこちらに襲いかかってきて、斬っては増えるの繰り返し。 「ちょっとーっ これ、どうするのよ!?」 ちらりとフィリーネを見る。 剣を構え、混乱しつつも、俺と同じように手ごたえのなさを感じているらしい。彼女が一応剣を扱えていることに安堵する。 ―――しかし、これをどうにかしないと… たしか、これ系のモンスターの弱点は…… 「フィリ、火だ」 「え?」 「火を持ってこい。こいつら全部、焼き払えるほどの」 しゃべっている間も、どんどん増えていく。早くしなければならない。 「あるわけないでしょ、そんな都合よく!」 俺は周囲に視線をめぐらす。目に入ったのは、 「あるだろ」 町の城壁を指さす。 木製だ。 「!? だめよ! あんた、何考えて――」 「封印されし者」 「!」 声だ。少し高めの、透きとおった声がする。どこか、厳かに感じる。 「その封印より押し出る力を、我の力へと変換せよ」 声が近づいてくる。同時に、何か大きな力が押し寄せてくる感覚に囚われる。 「我は、シトラス=ヘンデルハフト」 もう限界だ。すでに視界は、ゼリーで埋め尽くされている。 「我が名に応えよ、サラマンダー!」 |