第2章 思い出の始まり




I




―――何だ、これは!?

 王都までどうやっていこうか考えていた矢先、それは唐突に目の前に現れた。

―――ハイドか?

 灰や茶の混ざる半透明のゼリーのような体をしているそれは、ぶにょぶにょと揺れていた。

「いやーっ 何これ、気持ち悪い!」

 大きさは、俺達が丸ごと入っても余りあるほどで――でかい。これほど大きなものを目にしたのは初めてだ。こんな巨大なものが存在していたなんて……いや、そもそも何故こんな町の近くに現れたのだろう。通常ならば、廃棄物と人の負の感情が混ざって出来たこいつらは、廃工場等にいるはずだ。
 あの時もそうだった。村を出たときも、街道にモンスターが現れた。

「いやっ こっちきたわ!」

 今は考えるより倒す方が先のようだ。
 俺は、巨大なゼリーに斬りかかった。

「―――はぁっ」

 だが、まるで手ごたえがない。

「えっ ちょっ 増えた!?」

「! …分裂!?」

 確かに、二つに斬った。
 そして、二つになった。
 また斬る。
 今度は、二つ連続で。
 そして、四つになった。

「な……」

 どうやら、こちらが斬るより先に分裂しているようだ。
 次々にこちらに襲いかかってきて、斬っては増えるの繰り返し。

「ちょっとーっ これ、どうするのよ!?」

 ちらりとフィリーネを見る。
 剣を構え、混乱しつつも、俺と同じように手ごたえのなさを感じているらしい。彼女が一応剣を扱えていることに安堵する。

―――しかし、これをどうにかしないと…

 たしか、これ系のモンスターの弱点は……

「フィリ、火だ」

「え?」

「火を持ってこい。こいつら全部、焼き払えるほどの」

 しゃべっている間も、どんどん増えていく。早くしなければならない。

「あるわけないでしょ、そんな都合よく!」

 俺は周囲に視線をめぐらす。目に入ったのは、

「あるだろ」

 町の城壁を指さす。
 木製だ。

「!? だめよ! あんた、何考えて――」

「封印されし者」

「!」

 声だ。少し高めの、透きとおった声がする。どこか、厳かに感じる。

「その封印より押し出る力を、我の力へと変換せよ」

 声が近づいてくる。同時に、何か大きな力が押し寄せてくる感覚に囚われる。

「我は、シトラス=ヘンデルハフト」

 もう限界だ。すでに視界は、ゼリーで埋め尽くされている。

「我が名に応えよ、サラマンダー!」








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