第1章 夢の終わり




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 空にはうっすらと雲がかかっていた。晩には雨が降るかもしれない。
 門衛に軽く挨拶しながら、町へ入る。今日の活気はそこそこか。この町は、俺の住む村より倍は広く、人口は三倍にもなる。この辺りになると周囲に町や村が増えてくるので、王都の調査隊もこの町まではやってくるのだ。そのための施設も一通りは揃っている。

―――まずは、酒屋か…

「あ、すみません、酒屋ってどこですか?」

 ちょうど通りかかった町人を捕まえる。だが、町人は何も言わず、顎で示しただけで去ってしまった。
 愛想の悪い人だなと思いながら、顎で示されたほうを向くと、

「あ…」

 恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じつつ、すぐ横の酒屋の扉を押し開ける。
 からん、と音が鳴り、酒の異臭が鼻をついた。店内は薄暗い。客はまばらで、奥では、店主らしき男がグラスを磨いている。
 酒の匂いで自然と渋面になりながら、とりあえず一番近い机の男達に近寄った。
 どうやら昼間から出来上がっているらしい。多少の不安を押しのけ、彼らの会話に割って入った。

「少し、いいですか?」

「ん〜?」

 男達が振り返る。

「なんだぁ? しらふかぁ? いけないなぁ」

―――これが普通だ!

 昼に酔っ払っているほうが“いけない”と思うのだが。ここは一先ず飲み込んでおこう。

「ホーリィグレースという国を知っていますか?」

「あぁ? ホースグループぅ? 何のグループだそりゃ?」

 こっちが聞きたい。

「ホーエンロアーといやぁあいつ、今頃どうしてるかねぇ」

 知るか。

「あぁあいつかぁ…そういや昔……」

 だめだ。まともな会話を期待した俺がバカだった。これなら広場の子供に声をかけたほうがまだましだ。
 だが、ため息交じりに立ち去ろうとしたその時、

「待て待て兄ちゃん、まぁ、飲めや」

 腰をつかまれ、引き寄せられる。うなじに掛かる男の吐息が、何とも言えず酒臭い。

「ちょっ、放してください」

「なんだよ〜 この俺様の酒が飲めないとでも?」

「まだ未成年ですからっ」

「みせいねん〜? 見えない見えない」

「はぁ? あ、ちょっと」

 口元に酒瓶が持ってこられる。必死に抵抗するが、なかなか振りほどけない。筋肉が付きにくい体質をこれほどまでに呪ったのは、久しぶりだった。

「そぉらよ」

 体を捉えている男とは違う男の、そんな掛け声とともに、ばしゃっという液体がこぼれた音がした。

―――やっぱり酒場なんて 来るんじゃなかった!

 俺の意識は、そこで途絶えた。








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