第1章 夢の終わり




C




 あまり整備されていない道を歩く。草が伸び放題で、小石だらけの道を覆っている。果たして道と呼べるのか――往来する人が少なすぎて荒れまくりだった。
 隣村へと続く道。いつ通っても変わらない。草を踏み越え、あるいは掻き分け進む。

―――リナリア…

 その名は、胸の中に妙に響く。いつまでも残って離れない。俺はいったい何に惹かれているんだ?
 いや、

―――何を、忘れているんだ?

「!?」

 俺は、何を――何なら覚えているんだ?

「っ」

 不意に眩暈に見舞われる。それは、夢と現をつなげるかけ橋。
 白。白い。真っ白の――

「………ちっ蝶? こんな時期に、珍しいな…」

 蝶はいいと思う。ひらひら、ひらひらと人を誘惑していく。
 彼女に誘われ、俺は何度笑っただろ。何度、夢を見ただろう。
 いつまでも飛び続けてほしいと思う。どこまでも導いてほしいと思う。
 ふと、ポケットの中の手紙が気になり、手を伸ばす。少し胸が熱い。
 寄ったしわを何気なく指で伸ばしながら、もう一度、今度はじっくりと目を通す。

「……旧友…茶会……もしかして俺の他にもいるのかな…?」

 二人でテーブルを囲む姿は、どうもしっくりとこない気がした。
 そう、例えば――

「!」

 一歩飛びすさる。鼻先ぎりぎりを殺気のみなぎるものが通り過ぎた。もう二歩ほど後方へと飛び、腰にさした剣を抜き放つ。

「はっ」

 固いものがぶつかる音。左手からの衝撃が、全身へと伝わっていく。
 全身が痛みを感じる前に、剣先を僅かにずらし、力を滑らせる。その勢いを利用して一気に――!

「――ふぅ」

 悲鳴は無かった。よかった。そんなもの上げられたら、仲間が寄ってきてしまう。堪ったものではない。
 それにしても、

「こんな所にモンスターか…」

 二足歩行をする巨大なウサギのような――大群で行動するタイプではなかったはずだ。鋭い爪を持ち、強靭な後ろ足で地面を蹴って突進してくる。その腕力も侮れなく、接触すると力押しをするというスタイルだ。力押しは大歓迎である。相手の力が強ければ強いほど、その衝撃を活用し、反撃をする。昔からあまり体格が良くなかった俺に、先生が教えた型だった。

「左手がしびれちゃったな……対応が遅すぎ…か」

 まぁいい。反省と復習はゆっくりとやろう。あと一週間は、同じ風景なのだから…








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