「行って参ります、お兄様」
彼女は咲き誇る花のような笑顔を向けた。 病床の男は少し寂しそうだったが、すぐにそれを押し隠すように優しく微笑み返した。腕を伸ばして彼女の長く美しい髪を手に取り、軽く口づけをする。 「行っておいで、 髪がさらりと手から滑り落ちる。 2人は別れを惜しむように、しばし見つめ合っていた。2人とも、何かと葛藤していることは明らかだった。 やがて、彼女は想いをしまいこむように、深く頭を下げて部屋を去った。 男は、閉められた扉を掠れる意識の中で見つめる。 「きっと…戻っておいで……」 ただそこには、陽だまりのような暖かい香りだけが残っていた。 |