TOD2ミニ小説
バルバトスを追って18年前に来たところからです
シリアスっぽいですが
ハロルドをしゃべらせたくて1部お笑い要素が…
これまただいぶ昔に書いたものです
実は未完だったので無理やり終わらせてみました
終わりの付け足しついでに、全体的にちょちょっと手を加えてみました
どこが付け足した文章なのか読めばすぐにわかると思います…
そっそれでは、どうぞ↓↓
「ッ……」
気が付くと、地面の上に倒れていた。
天高く浮かぶ地面。
18年前。
よみがえったミクトランにより、再び地上の土が巻き上げられ、空を覆い隠す外郭が造られた時代。
そして、自分が世の中の人々に裏切り者と呼ばれ始めた時代だ。
「ここは……?」
まわりで、同じく倒れていた仲間が次々と起きだす。
「外殻の上、なのか?」
「本当の地面みたいだ……」
ただ1人を除いた皆が口々に自分たちの置かれた状況の感想を述べ合う。
そう。自分は、この後に起こるであろうことを思い、不安に押しつぶされそうになっていた。
(まさか、ここをこんな形で歩くことになろうとは……)
かつての仲間、スタンたちに会うこと。そして、けっして正体を明かしてはならないこと。
もし話しかけられでもしたら。
自分はそ知らぬ顔をしていられるだろうか。
過去ではない。あの時のまなざしで。
気づいてくれるだろうか。
気づいて、しまうのだろうか……
いや、そのようなことは些細なことだ。
時が動くにつれ膨らんでいく胸の痛みに比べれば、半分にも満たない。
彼はふと、背中の相棒の柄を握った。
『ぼっちゃん……』
曇りないレンズから、心に直接響き渡る声。
シャルにもこの疼きが伝わったのだろうか。
いや、違う。
シャルも同じ気持ちなのだ。
それは、彼が最も恐れていることが確実に訪れるということを示しているようで、彼は柄を握る手に力を込めた。
その存在が確かに在るという証を感じ取るかのように。
自分もそれも確かに存在しているという事実に、すがるように……
(シャル……)
声が聴けなくなる前に、何か言葉を交わしたかった。
もっと、たくさん。
けれど、ここには、ソーディアンの声を聞くことが出来る者が他にもいる。
特にカイルだ。
カイルがもし、この動揺に感づけば、千年前の決戦の時のように、歴史を変えようとするかもしれない。
カイルは、そういうやつだ。それは、ここ数ヶ月で痛いほど実感した。
ならばいっそ、戦闘で使ってやろうか。
そうすれば、もう言葉なんて要らない。自分たちは、一心同体となるのだから……
その間に、不安などあろうはずがない。
「ジューダス? どうしたの?」
前方からの声に意識を戻すと、みなと5歩ほど離れていた。
「いや……なんでもない」
そっけなく答えて、早足でカイルたちに追いつく。
カイルの心配そうな顔が、あのまなざしが、仮面の奥をのぞいてくる。
悟られる前に顔を背けなければ……
ちょうどその時、敵が現れた。
昔見たモンスターだ。
ジューダスは咄嗟に、左手でつかんでいた柄を引き抜こうとした。
ほんの少し持ち上げ、そこで躊躇する。
「…………」
ジューダスは、ふっと笑った。
迷うなんて自分らしくもない。
あの時だって、迷わずに捨て駒になることを選んだ。
自分が迷うなど……
「……っ」
漆黒の影はその場を蹴り、モンスターに挑みかかった。
右手にはレイピア、左手には、デスストロークを持って。
「…………なに、あれ……」
またしても、後ろのほうを歩いていたジューダスは、その怪しみに満ちた声に誘われるように前へ出る。
ダイクロフトに近づくにつれて、足が前に出にくくなっていた。
が、今はそれを振り切るように、カイルのところへ行く。
「…………」
そこには、丸い車輪が3つついた、小さめの乗り物があった。
「……三輪車だな」
「それはわかってるよ。けど、なんでここに……?」
みな、まるで見てはいけないものを見てしまったような、そんな顔をしていた。
「知らないのか? 三輪車に乗っていると敵に会わずにすむ。体力と精神力を温存することが出来るんだ」
「……じゃあ、父さんと母さんは、これに乗って……?」
カイルは、文字通り目を丸くして驚いている。
「だろうな。ウッドロウもフィリアも……6輪あるから他の者も乗っていたのだろう」
「…………」
そこで会話が途切れた。
各々の中で、それぞれの想像をしているのかもしれない。
ロニなんかは、あの麗しの――など、なにやらぶつぶつ言っている。
と――
「ちょっとまて。なんで三輪車に乗ってたら敵に会わねぇんだよ。逆に目立つだろ」
我に返ったらしいロニがもっともな疑問を口にする。知識のないものには相当奇怪なことだろう。その質問にはハロルドが答えた。
「あんた、アホね。 三輪車は――」
「な、何者なの、コイツ!?」
ハロルドの説明をさえぎるように、誰かの驚愕がかった声が場に響く。
この声は……
「母さんだ!!」
強力な磁石に引っ張られるように、カイルが駆け出した。
「おいっ カイルっ」
すぐさま、ロニが後を追う。みなもそれに続いた。
ジューダスのみ、やや遅れて行く。
その時は、刻一刻と近づいている。足が重い。
のどが、渇く。
「カイル 助けないと!」
「よっよし、行こう! 手伝ってくれ、みんな!」
「ウインドスラッシュッ まだまだ! クロスブレイド」
ナナリーが気合を込めて、晶術を開放する。
「ストラグファング! ヴォルテックヒートッ」
間をおかず、リアラも晶術をぶつける。
そこに透かさずカイルが駆ける。
「閃光衝、そこだ!」
カイルの単独連携はまだ続く。
「岩斬滅砕陣っ デルタレイ」
光の下級晶術がヒットしているところをさらにえぐるように、ロニがタバールを打ち込んだ。
ジューダスは、機をうかがいながら、発動するはずの力を溜め込んでいる――ふりをしていた。
戦闘は、カイルたちだけで十分に倒せるだろうと踏んでいる。
気が気でなかった。
ジューダスにとっては、刻々と迫り来る未来の虚無感をどう無視するかが、今の最大の課題だった。
しかし。
『ぼっちゃん……? どうしたんですか?』
ジューダスはその聴きなれた声に、はっとなった。
前方を見ると、今にもロニの連携は終わりそうだった。後方から詠唱の声が聞こえる。ハロルドの晶術はまだ完成していない。
らしくない。
彼はそう思った。本当に、らしくない。
彼らの戦いには自分が入る場所がある。
この空きには自分が入らなければならない。否、みんなそれを信じている。
ジューダスは一気に敵の眼前に迫った。
「どけっ」
「たのむ」
ロニの横を通り過ぎたとき言われた言葉が、思考に混ざる。
たのむ。
「ああ。任せておけっ……ッ月閃光!」
足が震える。手に力が入らない。うまく空気が吸えない。
目の前が真っ白になる。何も聞こえない。自分の鼓動すら。
今にも奥からあふれそうだ。
言葉が。
声が。
涙が。
それでも。
決めたんだ。
この世界を守ると。
自分の信じた者が救ったこの世界を。
自分を信じてくれた者が生きるこの世界を。
まずは歯を食いしばる。
手にはどうしても力を入れられないけれど。足は相変わらず後ろに下がろうとするけれど。
自分のこの鼓動が偽者でも。
これは自分の意思だから。
そしてジューダスは、まっすぐに神の目をみる。
END
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