TOD2ミニ小説



脱獄するあたりからストレイライズ神殿到着までのお話です

シリアスなのか何なのかよくわかりません



これもだいぶ昔に書いたものです

なんか衝動書きっぽい



それでは、どうぞ↓↓





 薄暗く、物音1つしない闇。
 安心感のかけらも持ち合わせておらず、かといって恐怖も感じられない闇。
 真実を隠し、幻のみを映す闇。
 そんな狭い空間から、未来という光をかざしてやってくる少年がいた。
 2,3歩先しか見えない水路で、その少年は、前方からの月夜の光に目を細める。

「ここが出口だ。 街の外へとつながっている」

 ほんの少しの間ではあるが共に戦った、仲間の声がした。
 手をかざしながら光の中を凝視する。
 彼の姿が見えにくかった。
 逆光ということもあるが、彼の漆黒の服が周りの闇に紛れたためだ。
 しだいに、輪郭がはっきりしてくる。月の光に目が慣れてきたらしい。
 実は、彼に会ってから今まで、ずっと暗い地下水路を通ってきたため、姿をきちんと見たのは今が初めてだった。
 彼の名はジューダス。
 本当の名前は知らない。これは自分が付けたものだ。
 なんとなく頭に浮かんだ名を言ってみただけなのだが、

『……ジューダス……か。 まぁ、それで我慢してやろう』

 と言ってくれたので、そのままジューダスと呼んでいるのだ。
 ロニは、彼が名乗らないことなどを怪しんでいたが、自分はそうは思わなかった。
 自分の考えた名前を気に入ってもらったせいなのか、不思議と懐かしい感じがした。

(何処かで会ったこと、あったかな……?)

 この地下水路を脱出する間、ずっと考えていた。
 もちろん、今も考えている。

「…………」

 けれど、もうお別れだった。
 長かった地下水路は、ようやく終わり、ぽっかり開いた穴から控えめな虫の音が聞こえる。

「どうした? 早くもどって旅に出るんじゃなかったのか?」

 いつまでも外へ出ようとしないこちらを訝しんだのか、彼が聞いてくる。

「……うん……それじゃあね、ジューダス。またどこかで会えるといいね」

 湧き上がる悲哀は胸にしまい、なんとか笑顔を作る。

「……カイル」

「なに?」

 彼が、やさしく自分を呼ぶ。
 妙に心地よいその声に、カイルは微笑をゆがませた。

「……僕は、お前といっしょに……」

「?」

「いや、なんでもない。 英雄になりたければ、せいぜいがんばることだ……じゃあな……」

 彼は去っていった。 正確に言えば、飛び降りていった。
 冷徹さを感じさせる闇色のマントをひるがえし、誰もの目をひく仮面の、その先の羽をはためかせて……
 だが、カイルにはわかっていた。
 彼は、けっして目立ちたいわけではない。
 けっして、冷徹なわけではない……と。





 すがすがしい朝だった。
 顔を上に向けると、雲1つない空に太陽が1つ、自分を照らしている。
 絶好の冒険日和だ。
 ラグナ遺跡で出会った少女を追いかける途中である。
 だがそのアイグレッテへの唯一の道であるハーメンツヴァレーの橋が落ちていようとお構いなしだ、そう思えるくらい、カイルの心は浮き足立っていた。

(英雄を探してるなんて…… 早く会って俺が英雄だって認めさせるんだっ ……そういえば、ジューダス……あの後どこに行ったんだろう……)

 谷をぴょんぴょん跳んで降りながら、ふと彼を思い出す。
 あの仮面の剣士は、今頃いったい……

「カイルっ あぶねぇ!!」

 頭上から、ロニの声が響く。

「! うっわぁぁぁ〜!!!」

 足元に、岩はなかった。
 考え事をしていて、足元を見ていなかった。
 どうやら、仰向けに落ちているらしい。
 そう理解した途端に、背後に岩の気配を感じた。

(ぶつかるっ!!)

 と、その時。
 体がふわっと浮いた……気がした。

「え?」

 気が付けば、岩の上に立っていた。
 いったい、何が……?

「カイルー 大丈夫かー? 今そっち行くからなーっ」

「うんー……」

 上のほうに向かって叫びつつ、カイルはまた考え込んだ。

(まさか、空を飛んだ……? それとも、鳥か何かが助けてくれた…とか?)

 珍しく深刻な顔をして唸っているカイルの所へ、ロニが駆けて来た。

「カイル、無事だったかー」

「うっうん。 それより、どうしようロニ。 俺、空飛んだのかなぁ?」

 その問いにロニは、あからさまに頬を引きつらせ、うめく。

「カイル……人間は空は飛べねぇんだ…… 誰かに助けてもらったんじゃないのか?」

「……? じゃあ鳥かなぁ…… 黒い影が見えた気がするし」

 ロニの顔が再び引きつる。
 だが、ロニはあえてつっこまなかった。
 こいつのボケは今に始まったものじゃねぇしな、と割り切る。

「とりあえず、先に進もうぜ」

「うっうん……」



 今度は谷を上っていく2人を目で追いながら、黒い影は木陰でそっとため息をついた。

「まったく……」

 そして、再び2人を追い始めた。





 アイグレッテ。
 とてもにぎやかな街だ。
 そんな街でも、外れまで来てしまえば人は少なく、静かなものだった。
 ストレイライズ大神殿へ続く遺跡は、人っ子1人いず、もっと静かだ。
 その中をカイルとロニは、2人で黙々と進んでいる。
 暗くて辺りがよく見えない。あの地下水路ほどではないが、どんな造りをしているのかよく分からない点では、どっちもどっちだった。
 先へ進んでは行き当たり、引き返しながら進んでいく。
 そうこうしているうちに、ある部屋に出た。

「……なんだろう……ここ……」

 1歩、足を踏み入れる。すると、床が青色に光った。
 その床には『D』と書いてあった。

「……?」

「そうか……何かの言葉通りに床を踏まなけりゃ、先へ進めねぇ仕組みなのか」

「何かの言葉って?」

 ろくに考えもせずにカイルは聞き返した。武器であるチャクマクを持っていない手をあごに当て、ロニが思考をめぐらす。

「……ストレイライズ……とか……?」

「でも、もう『D』踏んじゃったよ?」

「うーん……」

 2人で首をひねっていると、唐突にカイルの耳元で微風が吹いた。
 それが少しこそばゆくて、カイルは顔をほころばせた。
 誰かに息を吹きかけられたような感覚だった。

(……ん? 今、何か聞こえたような…… ……デス……デスティ……ニー?)

「!! デスティニーだっ DESTINYだよ、ロニ」

「デスティニー……運命か…… よし、踏んでみようぜっ」



 『E』の床に向かって歩き出した兄弟を見て、またしても彼はため息をつく。
 こんな簡単な仕掛けになぜ、気がつかないんだ……まったく、世話のかかる……





 そして、ストレイライズ大神殿中。
 バルバトスに、カイルたちが挑みかかる。
 ジューダスは、その場に駆け出した。
 彼らを助けるために。
 ……共に旅をするために…

「いくぞっ シャル」

『はいっ ぼっちゃん』





END