尊敬する人がいますか




僕はあなたのことを何も知らない

本当の名前も
本当の姿も
本当の行動も
そのときの想いも
本当の言葉も知らない

ただ本の中のあなたしか知らない
誰かの中のあなたしか知らない

それでもあなたを私淑する
あなたの伝説を信じてる


会いたいと思う

無理だと分かっているけれども

会って言葉を交わしたいと思う

話をするなんておこがましい


一方的でいい
何か
蔑みでも
罵倒でも
言葉をいただけたら

僕にはそんな資格すらない
だって僕は何もしてない
何も出来ないのだから


目が合うだけでいい

あなたの視界の、その片隅でもいい

僕が一瞬でも見ることが出来ればそれでいい
噂を耳にすることが出来ればそれでもいい


どうして僕はここにいるんだろう
どうして僕はこんな時代に生まれたんだろう

同じ時代に生まれたかった

同じ時を生きたかった


でもそれは決して叶わぬ夢


あなたが感じた空気を感じたい
あなたが踏んだ土を踏みたい

それさえ、叶わない


ならせめて、同じものを見て同じことを考えたい

あなたと同じことを考えるなんて
僕には到底無理だけど


土も空気も風景も、言葉すら違う
今はもう存在しない言葉
あなたを知っている人なんてどこにもいない


だから僕は今日も月を見上げる


遠い昔、あなたも見上げていた月と
同じものだと信じて